みんなツバサを待っていた――。2023年GⅠ最終戦「第65回競輪祭」(小倉、11月21日~26日)の開幕が刻一刻と近づいている。北九州市出身の北津留翼(38=福岡)にとって今年の祭はいつもとは違う。
ドームを走るのはファンを失望させた1月の失格以来、約10か月ぶり。誰からも愛される男が激動の一年を振り返るとともに今大会への思いを語った。
九州輪界の至宝・北津留が今年最後のGⅠに挑む。競輪発祥の地・小倉で行われる競輪祭は、今年で8回目(補充出場1回含まず)の出場。決戦を前に「一番気合が入ります。しっかりピークを持っていって北九州の選手みんなで盛り上げたい」と意気込みを語った。
プロ18年目の2023年は試練の年だった。初戦の立川記念で準優勝と幸先いいスタートを切ったものの、3場所目の1月小倉で先頭員早期追い抜きの失格。騒然とする検車場で「車券をムダにしてしまいお客さんに迷惑をかけてしまった」とうなだれた。
この失格で3月から3か月のあっせん停止(2月は自粛欠場)の重い処分が課された。グランプリロードからの脱落に一家の大黒柱が収入を失った。大ピンチに最初は「長いなあ」と困惑していたが、あり余る時間で普段はできない有酸素系のデータを収集するなど自転車と向き合った。復帰が近づくにつれ「時間が足りない」と思えるまでのめり込んだ。
戦線に復帰した6月からはノンストップで駆け抜けた。「最初はパッとしない、出し切れなかったが、徐々に力がしっかりと入るようになってきた。だんだん良くなってきた」。復帰戦の別府、8月豊橋、10月武雄で優勝と以前のパワフルな走りが戻ってきた。
9月別府で投入した新車が強力な武器になりそうだ。「ハンドルを高くできるようにしたフレーム。高い方が腕回りの風の流れはいいと思うけど頭の位置が浮き気味になって重心が下に入らなくなる。どのあたりがいいあんばいなのかを走りながら探していく」。本番までにミリ単位の調整を繰り返していく。
生まれも育ちも〝キタキュー〟。自転車競技でも活躍し、2008年北京五輪にも出場した。本業ではGⅠ決勝に4回進んでいるもののタイトル獲得には至っていない。輪史に名を残すチャンスも限られてきた。
ラインの先頭で風を切り、仲間の勝利に貢献してきた〝幸せ配達人〟も欲を出してもいいころだが「とんでもない」と手を大きく振って〝全否定〟。「みんな強いし、展開にも恵まれないと。チャンスが来た時はモノにできるように練習はしておかないと、と思っていますが、GⅠにも呼ばれなくなってきているので」と頭をかくのが北津留翼の人柄だ。
小倉ドームを走るのは、あの1月以来――。みそぎが済んだことはファンも分かっている。発走機に立てばツバサコールが迎えてくれるはずだ。
思い返せば2年前の競輪祭準決勝。大まくりを決めて同じ小倉をホームとする園田匠(42=福岡)とワンツーフィニッシュ。そして、再びタッグを組んだ決勝戦――。ファンのボルテージでドームが〝揺れた〟。あの興奮をもう一度感じさせてくれ!
☆きたつる・つばさ 1985年4月26日生まれ、福岡県出身。177センチ、80キロ。90期生として2005年7月佐世保でデビュー。GⅢ優勝6回。