ガールズケイリンのGⅠ「オールガールズクラシック」が松戸競輪場で10月2~4日にナイター開催で行われる。

 6R制の1個トーナメントは42人のガールズによるシ烈を極める争い(全ガールズ12Rシリーズで2R制×3個トーナメントあり)。優勝者には6月岸和田GⅠ「パールカップ」に続き、12月立川「ガールズグランプリ2023」の出場権が与えられる。

 ビッグレース初出場となる〝長崎のナイチンゲール〟山口伊吹(24=長崎)に心中を聞いた。

 なまめかしい笑顔でウフフ――。穏やかな語り口は戦後の女優のよう。多くのファンをとりこにする伊吹が、ついにビッグレースに登場する。116期の在校1位で期待を集め、高校時代からナショナルチームに所属した逸材だ。少し、時間がかかった。

「ガールズケイリンでは競輪祭の時のトライアルとガールズグランプリが大きなレースと思っていて、トライアルに出たい…、そこで戦いと思っていたんです。デビューした次の年からトライアルができたので」

 GGPの出場権をかけた戦いこそ究極。そこで――と目標を掲げてきた。昨年は、近づいた。選考期間の終わりになる8月に怒とうの反攻。函館の4日制シリーズを優勝し、「その後をしっかり走れれば…」の所まで来た。だが、思わぬ体調不良で走れなくなり、権利はその手からこぼれ落ちた。

 同期の久米詩、吉岡詩織が2020年大会に出場し、21年には仲のいい南円佳も参戦し、決勝3着と活躍した。

「焦りもありました。仲良しの円佳が出た時はうれしいけど、悔しい…って」

 順調にいかない選手人生がある。どうにも「自力を出せてきたり、調子が上がったりするとケガをしたり病気になったりして」足踏みを余儀なくされてきた。叩き落されるばかりで「ケガや病気が治ったら、『ヨシ!頑張ろう!』と思うんですが、復帰してみると脚の落ち方がひどくて『あ~』とまた落ち込んじゃうんです」と、部屋の片隅で膝を抱えて動けなかった。

 パールカップの出場権も取れず、暗がりに沈むことが多かったものの1人じゃなかった。

「なんか、なんていうか…、誰かがいないと頑張れない性格なんです」

 一番気になっているのは弟の存在だ。伊吹は5人きょうだいの3番目で、4番目の弟・留稀哉(るきや)さんが競輪選手を目指し、一緒に練習している最中だ。昨秋は不合格で「弟を自分が引っ張っていかないと、と思って、それでまた頑張ろうと思うんです」と気を奮い立たせ、クラシックの出場権ゲットにつなげた。

 支えてくれる両親のためにも…の思いも強い。父・裕史(ひろふみ)さんは「スパルタで朝から晩まで練習! っていう感じで、今でも厳しいアドバイスをくれます」と活躍を誰よりも願い、厳しく接してくれている。

 母・律子さんはSNSに〝山口伊吹〟が登場すると、いいねボタンを連打! 「九州男児を立てて、家のことを全部やって、仕事もして…」という尊敬する母だ。家事も「できる限りは手伝っています!」らしい。

 誰かのために――。その気持ちは、周りのみんなに伝わっていて、助けてくれる人も多い。

「広島のシックスペダル(SICKS:PEDAL STORE)さんで車輪を組んでもらったんですが、それの感じが良かったんです。GⅠでもしっかり戦えるように。勝ちたい? いや、今の自分ではそんなことは言えないです…」

 ただし、平塚(9月4~6日)では2日目に先行逃げ切りも決めて、手応えをつかんだ。また15日の久留米初日では児玉碧衣を倒して勝利と、ボルテージも高まっている。

「松戸を走るのも初めてだし、GⅠも初めて。何も印象がない方が力を出せる。期待されている人たちの方がプレッシャーを感じると思うんですけど、私はゼロの地点から走れる」。長崎にもう涙の雨はいらない。みんなに晴れ渡る笑顔を届けよう。

「あっ! さっきは勝ちたいとか言えないって言いましたけど、松戸の前検日(10月1日)には『勝ちたいです!』って言いますけん! 言えるようになっていますけん!」

 ☆やまぐち・いぶき 1999年8月24日生まれ、長崎県出身。鹿町工高卒。116期在校1位。愛猫の名前はキセキとメイ。「お父さんは厳しかったけど、猫を飼うようになってから人が変わったように優しくなりました(笑い)」