GⅠ優勝16回、生涯獲得賞金1位など競輪界の第一人者として活躍した神山雄一郎(56=栃木)が24日、都内で会見を行い、現役引退を発表した。輪史最強の呼び声高いレジェンドが、36年に及ぶ現役生活を退く思い、今なおあふれる競輪への熱い思いを語った。
やや緊張の面持ちで登壇した神山は冒頭「昨日(23日)までの取手競輪を最後に現役を退く決意をしました」と引退を発表。関係者や選手、ファンへ感謝の言葉を続けた際には声を詰まらせた。
引退を決意したのは「定かではない」と前置きした上で「(6月)函館(GⅢ最終日)での失格が(引退を)考える第一段階」と、A級陥落を決定づけた前期終盤の一戦が引き金になったとし「どうしようかと思いながら過ごして来て、決めたのは最近」と話した。前日までレースを走っていたこともあり引退の実感はまだなく「競輪が好きなので、できることなら一生続けたかった。こんな日が本当に来てしまったのか」と寂しさもにじませた。
競輪の魅力について語りだすと口調は一気に熱を帯びた。「こんなに素晴らしい競技は世界中探してもない」と切り出し「勝てばもちろんうれしいが、負けてもやり切った感が出せるレースがある。負けた中にも『勝ち』と『価値』があって、そこが競輪の奥深さであり魅力」と力説した。
衰えが目立ってからもモチベーションは低下することはなく「結局は同じレベルの人と走ることになる。特別競輪で走れなくなっても、その時と同じ気持ちで走れるんです。次のレースで何とか1着を取ってやろうという思いが選手を続ける原動力になった」。もちろんファンの存在も大きく「900勝(2023年6月)の前も多くの人に応援してもらえて、取る(達成する)までは辞められないなと思っていた」と話した。
選手仲間に話題が及んだ際には涙腺が決壊。「強い弱いに関係なく魅力的な選手がたくさんいる」と何度もおえつを漏らし「その仲間がライバルである自分を応援してくれる。そんな選手と一緒に戦えたことは自分の財産だと思う」と声を震わせた。1990年代に何度も名勝負を演じた吉岡稔真氏(65期=引退)についても触れ「勝手にライバル視して、認められたいと思っていっぱい練習した」と、互いにしのぎを削った若き日にも思いを巡らせた。
今後については「何も決めていない」としつつも「自分の積んできたキャリアで後輩のためになることがあれば」と、引き続き競輪界とは深く関わっていく。「まずは家族との時間を過ごしながらゆっくりしたい。これまで(KEIRINグランプリとは縁がなく)選手になっていい正月を迎えたことはなかったけど(笑い)今年は気持ち良くレースを見て選手全員を応援したい」
会見中は「競輪が好き」と何度も繰り返し「競輪とは」の問いには「人生そのもの」と即答した。競輪を心から愛し、その奥深さに魅了された、まさに競輪の申し子。記録にも記憶にも残る競輪界が生んだスーパースターが、36年に及ぶ選手生活に自ら幕を下ろした。